蝶ネクタイの歴史や種類・着用シーンなどの基本をチェック

ネクタイのなかでも特別な気品を放っているのが蝶ネクタイです。

しかし、蝶ネクタイは普段身に着ける機会が少なく、結婚式やパーティーなど、特別なときに着けるものというイメージが強いのではないでしょうか。

蝶ネクタイはフォーマルの印象が強く、逆にビジネスでは身に着ける機会も少ないことから、知らないことも多く、どちらかというと敬遠気味の人も多いかもしれません。

しかし、蝶ネクタイはフォーマル以外のカジュアルなパーティーなどでも、おしゃれ感を演出してくれる重要なファッションアイテムのひとつです。蝶ネクタイが生まれたきっかけや歴史、着こなし方を知れば、蝶ネクタイがもっと身近な存在となります。

今回は、これまで蝶ネクタイを身につける機会がなかった人向けに、蝶ネクタイについて解説するとともに、種類や結び方、シーンごとのおすすめの着用法について詳しく解説します。

蝶ネクタイの歴史

ネクタイの歴史は、2世紀初頭にローマ兵たちが防寒のために首に巻いていたウール製の防寒具が起源です。

このウール製の防寒具はフォーカルと呼ばれており、戦地に赴く兵士たちの家族や恋人が、無事を祈って送ったお守りのようなものであったといわれています。

ここから時代が流れ、蝶ネクタイの始まりは17世紀中頃のフランスにまで進みます。

当時フランスに駐留していたクロアチア兵たちは、首にスカーフのような布を巻いていました。当時のフランスには首にスカーフのような布を巻く習慣はありませんでしたが、国王ルイ14世はこのクロアチア兵たちの装いに興味を示し、さっそく宮廷ファッションに取り入れました。

この首元の布は、宮廷や貴族の間で大流行します。首の巻かれた布はクロアチア人を意味するクラバットと呼ばれるようになり、一般市民へ普及した後、やがてヨーロッパ全土へと伝わっていきます。

そして1850年代のイギリスで、クラバットの結び目だけを独立させたものがファッションとして登場します。これはデザインもより現代の蝶ネクタイに近いものとなっており、蝶ネクタイの誕生といわれています。

1920年代に入り、タキシードが夜の礼服として、燕尾服に次ぐ正装と認知されるようになると、これらに合わせるネクタイは黒の蝶ネクタイ(ボウタイ)がルールとされるようになります。

今ではタキシードと蝶ネクタイの組み合わせは世界的なドレスコードとなっており、流行の影響を受けることのない、最も格式高いフォーマルウェアとなっています。

蝶ネクタイの種類

蝶ネクタイの種類は主に4つあります。ここではその「バタフライ」「セミバタフライ」「ストレートエンド」「ポインテッド」について、それぞれ解説します。

バタフライ

蝶ネクタイの結び方のなかで、最もフォーマルでオーソドックスなのがバタフライです。呼び名のとおり蝶が羽を広げたようなシルエットをしており、タイ幅も7.6~8.9cmとかなり大きいのが特徴です。

存在感があるため、見る人に華やかな印象を与えるとともに、顔を小さく見せる効果も期待できます。クラシカルなスタイルにぴったりなタイです。

セミバタフライ

セミバタフライはバタフライとかたちは同じですが、大きさがやや小ぶりなのが特徴です。タイ幅は5.7~7cmほどと、通常のバタフライと比べるとひと回り程度小さくデザインされています。

セミバタフライはそのサイズ感から、装いに馴染みやすいのが特徴で、通常のバタフライのように目立ちすぎることがありません。コーディネートのなかに合わせやすいため、最も人気の高い蝶ネクタイのタイプです。

伝統的な蝶ネクタイのスタイルを楽しみつつ、違和感なく身につけたいという場合は、このセミバタフライがおすすめです。

ストレートエンド

ストレートエンドは、全体がほぼ真っ直ぐなシルエットをした蝶ネクタイです。タイ幅が3.8~5.1cmと狭いため、全体が小ぶりでタイの端の広がりがないのが特徴です。

かたちがコウモリに似ていることから、バットウィングと呼ばれる場合もあり、ほっそりとしたスタイルがカジュアルな印象を与えてくれます。

また今回紹介している4種類のスタイルのなかでは、最も小さくほっそりとしています。フォーマルな印象を抑えつつ蝶ネクタイを楽しみたい場合にぴったりの蝶ネクタイです。

ポインテッド

ポインテッドとは、タイの先端が尖ったシルエットを持つ蝶ネクタイです。今回紹介している4種類のなかでは、最もデザインに遊びがあり、個性的でカジュアル度の高い蝶ネクタイです。

フォーマルな場よりもややリラックスした場での着用に適しており、結婚式の二次会など、フォーマルなスタイルが厳格に要求されないパーティーなどに向いたネクタイです。

身に着ける人の遊び心もうかがえる蝶ネクタイとして、ぜひ効果的に着用したい蝶ネクタイです。

蝶ネクタイを着用するシーン

蝶ネクタイは主にフォーマルな場で着用するものですが、具体的にはどういったシーンにふさわしいものでしょうか。ここでは代表的な2種類について紹介します。

結婚式

まずは結婚式です。日本では黒色はお葬式のイメージが強いですが、蝶ネクタイの場合はブラックが最もフォーマルなスタイルです。

蝶ネクタイはもともと夜の礼装に合わせるものでしたが、近年は結婚式であれば昼でも着用可能とされています。

もう少し柔らかい雰囲気の方がよい場合は、さりげなく柄の入ったものを選ぶとおしゃれに見えます。結婚式のフォーマルな雰囲気に合わせたい場合は、無地の白やシルバーなども無難です。

パーティー

カジュアルなパーティーでは、結婚式のようなフォーマルさは求められません。着用する蝶ネクタイの柄や色を自由に選ぶことができ、スーツなどとのコーディネートを楽しめます。

特にカジュアルな場で取り入れたいのが、素材のバリエーションと季節感のある色使いです。

フォーマルなスタイルの蝶ネクタイは、素材も格調高いシルクであることが絶対ですが、パーティーなどのカジュアルな場では、逆にシルクがフォーマル過ぎる印象を与える場合があります。

したがってカジュアルな場ではコットンやウールといった、リラックス感のある素材を取り入れるとよいでしょう。

またジャケットなどと組み合わせながら季節感のあるカラーを使うことで、パーティーにふさわしい華やかさも演出できます。

蝶ネクタイの人気素材

蝶ネクタイは着用シーンに適した素材があります。また素材が変わるだけで印象も大きく変わるため、パーティーなどの場では素材の選び方もおしゃれさを見せるポイントとなります。

ここでは蝶ネクタイで使われる人気素材4種類を紹介します。

シルク

蝶ネクタイの王道といえるのがシルクです。シルクは生地に光沢感があるため、自然な高級感があります。最もフォーマルな素材とされており、タキシードやブラックスーツなどのスタイルに合わせる際に最適です。

シルクの蝶ネクタイも黒だけではなく、さまざまな色や柄があるので、場面により使い分けができます。

ウール

ウールは季節感を演出しやすい素材です。羊毛という天然繊維のため独特の柔らかさがあり、スーツなどと同素材なので、フォーマルなスタイルにも自然に合わせられます。

シルクのような光沢感が少ない分、若干カジュアルな印象になるため、リラックスした雰囲気にまとめたい場合にぴったりです。

コットン

コットンはカジュアルな服に使われる素材ということもあり、蝶ネクタイでもフォーマルな場ではほとんど着用されません。

色や柄を楽しみやすい生地ではありますが、カジュアルなパーティー向きの素材です。黒のタキシードなどのフォーマルスタイルには合わないため、組み合わせないようにしましょう。

モヘア

モヘアとはヤギの毛のことです。蝶ネクタイでは、ウールなどとの混紡で使われる場合が多い素材です。同じ動物繊維であるウールと比べてもゴワゴワ感が強いため、よりカジュアル感が強く出ます。

ツイード素材のスーツなど、カジュアルな素材感の服との相性に優れているため、パーティーなどフォーマル以外の場での着用が適しています。

蝶ネクタイにおすすめのシャツの襟型

蝶ネクタイを着ける際に迷うのが、シャツの襟型です。

蝶ネクタイは普通のネクタイと形状が大きく異なるため、どういったシャツに合うのか分からず、襟型との相性に悩んでしまう場合も少なくありません。

ここでは蝶ネクタイにおすすめのシャツの襟型を紹介します。

スプレッドカラー

蝶ネクタイと相性のよい襟型は、襟の開きが120~140°程度のスプレッドカラーです。

フォーマルとカジュアルのどちらにも対応できる襟型で、襟先が短いため、蝶ネクタイによく馴染みます。

スプレッドカラーは種類も豊富です。たとえば襟羽根の長さによって、イタリアンスプレッドカラーとイングリッシュスプレッドカラーがあるなど、選択の幅が広いです。

セミスプレッドカラー

襟の開きが90~100°程度と、通常のスプレッドカラーと比べてやや狭いのが、セミスプレッドカラーです。

襟の開きが狭くて上品な印象があるため、カーディガンやVネックなどとよく合います。スプレッドカラーと比較すると、よりカジュアルなスタイルに向いた襟型です。

ウィングカラー

立ち襟とも呼ばれ、襟先の先端を小さく折り返した襟型です。襟が首を包むように立ち上がった、独特のスタイルをしています。

ウィングカラーは本来、フォーマルな場面で着用される襟型です。結婚式や披露宴以外に、公式行事や記念式典、クラシックのコンサートや社交ダンスなどでも着用されています。

ウィングカラーはフォーマル性が極めて高く、また襟元の形状からも蝶ネクタイと最も相性がよいとされているほどで、蝶ネクタイを着こなすなら一度は挑戦してみたい襟型です。

しかし、ウィングカラーで蝶ネクタイをカジュアルに着こなそうとすると、もともとのフォーマル感をやわらげる必要があり、色や素材に工夫が必要です。

ジャケットやスーツとの組み合わせなど、カジュアルに馴染む装いをトータルのコーディネートから考える必要があります。

クレリックカラー

クレリックとは僧侶の意味で、僧侶の着ているシャツの襟型に似ていることから名付けられました。シャツの身頃が色柄で、襟部分と袖口が白無地になっているのが特徴です。

非常に伝統的でフォーマルなシャツということもあり、クレリックカラーも蝶ネクタイとの相性のよい襟型です。

クラシックカラー

レギュラーカラーとも呼ばれており、襟の開きの角度が75~90°と比較的狭いのが特徴です。日本では冠婚葬祭時に着用されるケースが多いカラーで、蝶ネクタイとの相性も悪くありません。

レギュラーカラーは襟先が長く下に向いており、もともと明るい印象を与えづらい襟型ですが、短く横に広がる蝶ネクタイが組み合わさることで、バランスのよい華やかさが生まれます。

蝶ネクタイの結び方

蝶ネクタイには、フロントのリボンがすでに結ばれた状態のものと、自分でリボンを結ぶものがあります。

リボンが結ばれた状態のものは結び目が固定されているため、首回りのアジャスターで長さを調節し、装着します。

自分で結ぶタイプの蝶ネクタイは、下記の手順で結び目を作ります。

1.アジャスターでやや長めに調整した蝶ネクタイを、片側を長く非対称にして首にかけます。この際、利き手側を長めにするのがおすすめです
2.長い方が上にくるように胸前でクロスします
3.上に重ねた長い方を短い方にくぐらせ、一度軽く結びます。あとから調節するため、固く結ばないようにします
4.短い方を半分に折り、リボンの先端のかたちを作ります
5.長い方を上から重ねて巻いていきます
6.巻きつけた長い方の先端も、リボンのかたちに折ります
7.巻き付ける際にできた長い方の根元の輪に、折りたたんだ長い方のリボンの先を通します
8.リボンの先端を引っ張りながら、かたちを整えていきます

かたちを整える際は一気に引っ張らずに、少しずつ締めていきます。

いきなりきつく締めると調整できないため、ゆっくりと調整しながら、ネクタイの結び目の中心にできるディンプルと呼ばれるえくぼを整えて立体感を出していきます。

全体のバランスが整ったらきつく締めて、最後にもう一度全体の立体感を整えます。結び目部分がきれいに作れたら、アジャスターを締め込んで完了です。

まとめ

大抵の人にとって、蝶ネクタイを身に着ける機会は決して多くありません。結婚式やパーティーのような特別な機会に限定されることから、蝶ネクタイに興味はあってもなかなか挑戦しづらいというのが実際のところでしょう。

しかし、蝶ネクタイはもともとフォーマルな場での装いです。正しい知識さえあれば、そこまで身構えるものではありません。ルールや向き不向きの理解さえあれば、むしろ迷うポイントは少ないとさえいえるでしょう。

蝶ネクタイは長い歴史のなかで洗練されてきたスタイルで、伝統に裏打ちされた服飾の美を気軽に楽しめる数少ない機会です。

ぜひこの機会に蝶ネクタイの世界に一歩踏み込んでいただき、蝶ネクタイを身に着ける機会を楽しんでいただければと思います。